世子様に見初められて~十年越しの恋慕
夜が明け、チョンアはソウォンの髪を丁寧に梳く。
世子がいつお越しになられてもいいように。
世子に拝謁出来るだなんて名誉な事なのに、チョンアは心から喜んでよいものか、憂鬱だった。
「チョンア、さっきからため息ばかりだけど、どうかしたの?」
「………いえ、何でもございません」
「早くお仕度せねば……」
普段なら冗談交じりに会話が弾むのだが、今日ばかりは違った。
ユルは水蛇商団と審薬との関係を調べに出ている為、嫌でも二人は顔を合わせねばならない。
チョンアは、ソウォンの両親に何と伝えれば良いのか、そればかり考えていた。
大提学の娘である為、縁談話は後を絶たない。
少し前にも縁談の話が来たのも事実。
結婚適齢期なのだから仕方ないが、よりにもよって……王室となると……。
しかも、その相手が世子となれば、話は変わって来る。
更に、世子には既に正妻がいる。
ソウォンもその昔、揀択に申告したくらいなのだから……。
ゆえに、世子との関係は婚姻が成立したとしても、側室という扱いになる。
漢陽でも名のある名家の娘である為、肩身の狭い側室になどならぬともよい身分なのに……。
ソウォンを正妻に迎えたいという良家は幾らでもあるというのに……。
自分が目を離したばかりに、事態は深刻になってしまったと思い込むチョンア。
喜ぶべき事なのかもしれないが、心の底から喜べずにいた。
チョンアが深刻に悩んでるなど思いもしないソウォンは、昨夜持ち帰った回青を指先で確かめ、思考を巡らせていた。