世子様に見初められて~十年越しの恋慕
肩を落とすヘス。
義父を信頼していただけに、落胆の色を隠せない。
「世子様」
「…………ん」
狼狽えるヘスは意識朦朧としながら立ち上がった、その時。
パキッと枝が折れる音が響いた。
「何者だっ!!」
ヘスはよろけた拍子に枯れ枝を踏んでしまったのだ。
「世子様っ」
ヒョクは世子の体を支えた。
「いたぞ、あそこだっ!何としてでも捕まえろ!!」
ヘスとヒョク、そしてヒョクの部下数人は追手から逃げる為、その場を後にする。
狭い山道を必死に駆ける。
馬を待機させている場所まであと僅か。
曲がり目に差し掛かった、その時。
ヒュッと音を立てて数本の矢が背後から飛んで来た。
「ここは私共にお任せ下さいっ!」
「だがっ……」
「何をしてるんですっ!早くっ!!」
十名ほどの騎馬が物凄い勢いで追ってくる。
ヘスは仕方なくヒョクとその部下に任せ、馬の元へと急いだ。
暗行御史で来ている為、本来の目的を果たせぬまま身分を明かす訳にもいかず……。
小屋の中で何が行われているのかという決定的な証拠を見つけた訳ではない。
あくまでも、顔見知った私兵がその場にいたというだけだ。
小屋の中で何が行われているのか知らず、ただ護衛を任されているだけだと白を切られては元も子もない。
布で口元を覆い顔を隠している為、まだ世子だとは気づかれていない。
何とか馬の元へと辿り着き、枝に結ってある手綱を解いていると。
「いたぞっ!」
背後から二人の追手が現れた。