世子様に見初められて~十年越しの恋慕
「フッ、そうやってありもしない罪を擦りつけて、示談金でも巻き上げようっていう魂胆なんて子供の私でも見え見えよ!」
「何だとっ?!じゃあ、そいつが無実だっていう証拠を出してみろっ!どうせ、出せやしないに決まってる」
ソウォン達の口論を聞きつけ、店先に野次馬が集まって来た。
「おい、どういうつもりだ」
ソウォンの元へとやって来た少年は、小声で耳打ちをする。
「見てれば、分かるわ。ここから動かないでね?」
「……あぁ」
少年を真っすぐ見上げ、ソウォンは言い切った。
そして、店主の元へと歩み寄る。
「水差しがどこに置いてあったって?」
ソウォンは堂々とした口ぶりで捲し上げた。
「あ?………ここだよっ!それが、どうしたと言うんだ」
店主は苛立ち気味で店先の平台の上を指さした。
すると、ソウォンは分からないふりをして再び聞き返す。
「えっ?……どこ?」
「ここだと言ってるのが分からんのかっ!?」
とうとう店主は頭に血が上って、平台の上をバンッと強く叩いた。
「フフフッ」
「貴様、何がおかしいっ!」
「今、自ら証拠を証明したじゃない」
「はぁ?」
ソウォンの言葉に、その場にいる誰もが首を傾げていると。
ソウォンは堂々とした態度で口を開いた。
「おじさんはここにあった水差しを彼が盗んだと言うけど、でっち上げもいいとこよ!だって彼は、この場所には一歩たりとも近づいてないわっ!」
「出まかせを言うなっ」
「嘘じゃないわ!だって、ここにはおじさんが履いてるような草鞋の足跡しか無いじゃない。彼の足下を見てちょうだいっ!彼は太史鞋(テサヘ:絹と綿で出来た靴)を履いてるわ。それに、どう見たって泥一つ付いてないじゃないっ!言いがかりもいいとこよ。今すぐ捕盗庁の役人を呼んで来るわよ?!」