世子様に見初められて~十年越しの恋慕
得意げにフンッと鼻を鳴らすソウォンは、わざとらしく足踏みをした。
平台の足下は砂埃が舞うのを避ける為、水が撒かれた後のようだ。
所々に足跡があり、小さな水たまりのようなものまで出来ている。
ソウォンが言う通り、店主の足下には草鞋の足跡しかない。
太史鞋の足跡など何処にもないのである。
店主の草履はおろか、足袋(ポソン:靴下)にまで泥がついている状況では、これ以上言い逃れは出来そうにない。
店を取り囲むように集まった見物人達が口を揃えて店主を詰った。
「なんて酷い事をする店主なんだっ!」
「そうだ、そうだっ!」
「子供から金を巻き上げようだなんて、大人のする事じゃないっ!」
「恥もいいとこだっ!」
どこの誰かも知らない人達だが、ソウォンの言葉に賛同し、一斉に店主に詰め寄った。
「おいっ」
「しっ!」
人々の視線が店主に集中する中、ソウォンは少年の手を掴んでいた。
そして、人目を避けるかのように店を後にし、裏手の通りを駆け抜け、市場を見下ろす高台にある大木の根元に辿り着いた。
「ここなら人目につかないわっ」
夢中で駆けて来たソウォンは、息を整えながら少年の方に振り返ると。
「っ……」
少年の口元が目の前に。
こんなにも至近距離で年頃の男性に近づいたことが無いソウォンは、一瞬で顔を紅潮させた。
「いい加減、この手を放してくれぬか」
「え?……あっ、ごめんなさなっ!」
慌てて掴んでいた手を放したものの、ぎゅっと握っていた為、彼の手の感触が……。