世子様に見初められて~十年越しの恋慕


 * * *

「ヒョク、あそこが昨年、国費で修復された箇所なのだな?」
「はい、世子様。この地域は雨量が他の地域に比べ格段に多く、一昨年も一里程先で決壊したと報告書に記載がありました」
「……そうか」

ソウォンの容体が気にはなるが、本来の目的を無視する訳にもいかず。
ヘスは部下数人を連れて、河川の決壊箇所を調べに出ていた。

早朝という事もあり、辺りには人の気配は無い。
ヘス達は岩石が積み上げられた場所へと歩を進めた。

川は緩やかな曲線を描くような形状。
まだ雨季では無いせいか、到底氾濫するようには見えない。
ヘスは川に沿って少し歩き、積み上げられた岩石や周辺の様子を注意深く見る。

すると、積み上げられた岩石を見て、何となく違和感を覚えた。

「ヒョク」
「はい、世子様」
「この岩を少し砕いてくれぬか」
「砕くのですか?」
「ん」

ヒョクは部下に指示を出し、岩の一部を砕かせた。
それを手にした世子。
目で見ただけでなく、実際に手にして確信したようだ。

「世子様、岩がどうかされたのですか?」

ヒョクは神妙な面持ちの世子に問う。
すると、くるりと振り返り、採石場がある山の方を見据えほくそ笑んだ。

「氾濫の真相が分かったぞ」
「えっ?……お分かりになられたのですか?」
「あぁ。確証を得る為、別の場所も調べるとしよう」
「はい、世子様っ!」

ヘスは護衛を引き連れ、一里程先の氾濫があったという場所へと向かった。


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