世子様に見初められて~十年越しの恋慕
* * *
上常山城の日当たりの良い部屋で、ユルは火鉢の中の炭を掻き混ぜていると、部屋の隅で僅かに何かが動いた気配を感じた。
無意識に首を動かし、その元へと視線を移す。
すると、意識を失っている筈のソウォンの指がぴくっと僅かに動いた。
「おっ……お嬢様っ、お嬢様!!ユルですっ!私の声が聞こえますか?!……お嬢様っ!」
ユルはすぐさま駆け寄ってソウォンの手に触れ、必死に何度も呼び掛ける。
そんなユルの声に反応するように、瞼の内側で眼球が僅かに動いているのが見て取れた。
ユルは目を見開き、慌てて部屋を飛び出した。
ユルは洗い場へと向かい、チョンアに事の次第を説明した。
すると、一瞬で明るい表情になったチョンア。
その瞳には既に涙が滲んでいる。
チョンアとユルは、ソウォンがいる東棟の客間に向かった。
「お嬢様っ、……お嬢様っ!!」
無意識に声を張り上げるチョンア。
必死に駆け、漸く東棟の南回廊に到着した。
すると、客間の扉の前にヘスの姿があった。
「何かあったのか?」
「はい?」
「今、ソウォンの事を呼んでいたではないか」
血相を変えて駆けて来た二人の様子を窺い、ただならぬ雰囲気だと感じ取ったヘス。
とある物を抱えていたが、その手に無意識に力が入っていた。
「世子様」
「ん、……申してみよ」
「お嬢様が………、意識を取り戻しそうです」
「それは誠かっ?!」
「はい、世子様。先ほど指先が動き、呼び掛けに眼球が動いておりました」
「………そうか」
チョンアとユルの言葉に、安堵の表情を浮かべたヘス。
「この目で確かめねば……」
「はい、世子様」
護衛の者をその場に残し、ヘスとチョンアとユルはソウォンの元へと急いだ。