世子様に見初められて~十年越しの恋慕
ヘスは両手に抱えている物をユルに手渡し、一目散にソウォンの元へと駆け寄った。
「ソウォン、私の声が聞こえるか?」
「お嬢様っ!」
室内に緊張が走る。
三人が固唾をのんでソウォンの様子を窺っていると、小首が僅かに動き、目元に力が入った、次の瞬間。
ゆっくりと瞼が開いた。
「ソウォンっ!!」
「お嬢様!!」
「ソウォンお嬢様っ!」
ソウォンは辺りをゆっくり見回し、間近にいるヘスに視線を留めた。
「ソウォン、私が誰だか分かるか?」
ヘスが心配そうに覗き込むと、ソウォンは安堵したような柔らかい笑みを浮かべた。
体内に毒が残っていれば呂律が回らず、幻視が現れる事もある。
目が覚めたからといって、油断は出来ない。
ヘスは瞬きも忘れ、ソウォンをじっと見つめていると。
「良かった、ご無事だったのですね。…………世子様」
ソウォンの言葉にヘスは唖然としてしまった。
ここがどこか。
何故ここにいるのか。
どれくらい気を失っていたのか、などという言葉が返ってくるものとばかり思っていた。
けれど、ソウォンの口からは、自分の安否を気にするものだったのだ。
そんなソウォンの笑みにヘスの心はぎゅっと鷲掴みされた気がした。
ヘスはそっとソウォンの手を握る。
すると、指先から伝わるのは自分と同じくらいの温かさだ。
あんなにも冷え切って氷のように冷たかった指先が、今はぬくもりも感じられるくらい温かい。
ヘスは漸く胸を撫で下ろした。
そして、心配そうに見守るチョンアへと視線を移し、小さく頷く。
チョンアの瞳からは幾つもの涙が零れ落ちた。