世子様に見初められて~十年越しの恋慕
「お嬢様っ、………お嬢様、ご無事で何よりです。チョンアの元に無事にお戻り下さり、心から感謝致します」
まだまだ青白く全快するにはほど遠いが、それでも峠を越した事には変わりない。
心から安堵したチョンアは、嬉しさのあまり泣き崩れてしまった。
ヘスに抱えられ上体を起こしたソウォンは、そんなチョンアの両手に手を重ねた。
「心配かけてごめんね、チョンア」
「うっ……。もうっ、…………お嬢様に驚かされるのには……慣れてますからっ」
皮肉にも思える言葉かもしれない。
けれど、二人にとっては合言葉のようなもの。
いつだって無鉄砲のソウォンに振り回され、肝を冷やすのは日常茶飯事。
だが、生死を彷徨うような事はこれまで一度も無かった。
それゆえ、生きていてくれるだけで全てが許せてしまう。
チョンアはソウォンの手を握り返し、何度も何度も頷いた。
漸く落ち着いたチョンアの後ろで無言で見届けているユルに視線を移し、優しく微笑む。
……私は大丈夫だと。
ユルも一安心したのか、大きな溜息を吐いた。
ソウォンはユルの手に抱えられている物に目を奪われた。
「きれい、………凄くきれいね」
「これは世子様が……」
「えっ?」
「い、いや、………別にそなたにという訳では無いのだが……」
「………」
「視察に行った帰りに見つけたから、春の香りでもと思って………」
「うふふっ……。有難うございます、世子様」
ヘスは視線を逸らし、照れた顔を隠そうと必死だ。
そんな意外な一面を知る事ができ、ソウォンは嬉しくなった。
視察の帰りにサンシュユを見つけたヘスは、再会したあの日を思い出した。
奇跡とも思えるあの日にあやかりたくて、無意識に花を手折っていた。