世子様に見初められて~十年越しの恋慕
翌朝、身支度を済ませたソウォンの元にヘスが現れた。
「ソウォン、漢陽へ戻るというのは誠か?」
「はい。予定よりだいぶ日が経ってしまい、両親が心配していると思いますので……」
「そうか。だが、もう二、三日休まなければ、漢陽へ戻るのは辛かろう」
「ご心配には及びません。連れの者の馬に乗せて貰いますので……」
ヘスと同じく、チョンアももう少し休んだ方が良いと言うのを一刻も早く自宅へ戻ると言い張るソウォン。
予定より遅くなっただけならまだしも、生死を彷徨う程の事態に見舞われたと両親に知れれば、商団の存続も危ぶまれる。
それこそ、何処かの良家の子息に嫁ぐその日まで、屋敷から一歩も出る事を許されないだろう。
ソウォンはいつもより多めに白粉をし、血色がよく見える桃色の紅をさしていた。
「無理はさせたくない。それで、誤魔化したつもりか?」
「っ………」
化粧で誤魔化したところで、病み上がりだという事実は変わらない。
ソウォンは気まずさから、俯いてしまった。
「では、こうしよう。輿を用意するゆえ、それに乗るといい」
「………有難きお言葉ですが、丁重にお断り申し上げます」
「何故だ」
「それこそ、両親を心配させてしまいます」
「だが……」
「本当に私のことは大丈夫でございます。世子様は、ご自分のすべき事をなさって下さいませ」
ソウォンは丁寧に頭を下げた。
世子の提案を断るなど、それこそ大問題だが……。
病み上がりのソウォンは、まだ頭が上手く働いていなかった。
漢陽にいる両親の元に一日でも早く帰る事以外、考えられなかったのである。
すると、