世子様に見初められて~十年越しの恋慕
ヘスが発した言葉の意味が分からない訳ではない。
漢陽という同じ目的地を目指す訳だし、急いで戻るという事も同じだ。
だが、親衛隊を引き連れての世子と帰路を共にするなどと、恐れ多い。
王族ならともかく、何ら関係のない両班の娘だ。
何をどう考えてもあり得ない。
ソウォンはあまりにも唐突なヘスの言葉に唖然としてしまった。
すると、
「向かう先が同じではないか」
「それは、………そうなのですが………」
「そなたの事が心配なのだ。………これは、世子の命令だ。一緒に参るぞ」
「ッ?!」
ヘスはソウォンの返事を待たず、外で待機しているヒョクの元へと。
事情を説明し、“ソウォン達を連れて帰る”と宣言した。
一方、ヒョクの部下から事情を聞かされたチョンアとユル。
世子の命令とあっては、どうする事も出来ない。
仕方なく荷を馬にくくりつけ、いつでも出発出来るように準備した。
部屋に取り残されたソウォンの元にヒョクが現れた。
「ソウォン様、世子様がお待ちです」
「あっ、はい!」
ヒョクに連れられ、表へと出ると。
見るからに毛つやが良く、お尻には銭型模様が現れている。
心臓が強く足腰も丈夫で、最高級の馬だという事が見て取れる。
鼻筋も取っており、何より目が澄んでいる。
さすが、世子の愛馬だ。
手入れも行き届いているが、その気品は一目見ただけで分かった。
両班の娘だが、馬に乗る事の多いソウォンにとって、馬の状態は幼い頃から良く学んでいる。
それゆえ、自分との身分の差が痛いほど分かってしまった。
ソウォンは顔を伏せ気味にチョンアとユルの元へと向かおうとした、その時!