青野君の犬になりたい
「で、話を戻すけど」
カンナさんが話を続けた。

「大学ではたくさんの女子が草汰を狙っていたらしいけど、彼には2つ後輩の詩織さんていう彼女がいたんだって。いつも一緒に寄り添っていて、ものすごく仲が良かったらしい。誰もが当然、2人は結婚すると思っていたそうよ。でも、なぜか彼女は大学卒業してすぐにアメリカに行って、まだ帰ってきていないみたい」
「どうしてかしら」
「さあ。その後の草汰と彼女の関係は誰も聞いていないし、みんな知らないって」
「もう3年たっていることになるけど、その詩織さんが今でも青野君の一番目の彼女だと思うのはなぜ?」
「誰がどう尋ねても、草汰は詩織さんと別れたとは口にしないそうだから。草汰がこんなに恋愛に腑抜けなのはその彼女を未だに待っているか、もしくはふっきれないせい。彼の中で終わっていないからだと思うの」
そうか。それなら――
「きっと待っているのね、詩織さんを」

青野君は詩織さんをずっと心の中で待ち続けている。
たとえ会っていなくても、彼女と連絡が取れていなかったとしても、絶対に青野君は待っているのだ。
彼女が戻ってきてくれるのを。
胸が詰まった。
青野君の心の隙間は詩織さんの場所。
彼女が戻ってくるまで空っぽのままだ。

「なんか、つらいかも」
カンナさんがしんみり言った。
「うん」
私も。
そして青野君も、きっとつらい。

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