青野君の犬になりたい

私を捨てて

こんな偶然があるのだろうか、とびっくりするほどひどい偶然があるものだ。

カンナさんから聞いた詩織さんという彼女の話にかなりやられてぼんやり暗くなった週末、英子の買い物に付き合って六本木に出た。
華やいだ雰囲気に囲まれ、ちょっと気分を持ち直していたころだった。
ちょうど入ろうと向かっていたファッションビルの前に、青野君が立っているのを見つけた。
「あ」と、小さく声をあげる。
もうすでにあれこれ買い物をして、腕にいくつも持った買い物バッグをガサガサさせて英子が立ち止った。
「どうしたの?」
「青野君が、いる」
黒のブルゾンにストレートジーンズ。
細身に体によく似合っている。
「え、どこ?」
英子がきょろきょろ周囲を見回している間に、私は青野君の方に歩み寄っていた。



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