青野君の犬になりたい
まずは簡単な自己紹介を済ませてから席替えをさせられた。
青野君の左右に私以外の2人の女子が、その正面に私をはさんで男性2人が座り、私と青野君は正面に座る羽目なって気まずさはさらにアップした。
それでも私と青野君以外は皆よくしゃべり、たわいないことをたわいなくしゃべってそれなりに盛り上がっていた。
アルコールも程よく回って雰囲気が随分くだけたところで「こいつさ、このメガネダテなんだぜ」と、私の左側に座っていた男性が腕を伸ばして青野君のメガネを剥ぎ取った。
隣席の女子が「やだ、かっこいい」と、青野君の顔に顔を近づける。
やめて、青野君に近づかないで。
青野君を好きにならないで。
勝手なことを私は正面の席からただ祈る。

「返せよ」
青野君にメガネを渡しながらその友人が「そういえばさ」と聞いた。
「なんだよ」
「詩織、あれからどうしてる? まだ付き合ってるの?」
私は思わず目をテーブルに落とした。
「えー、もしかして青野さんて、彼女いるんですかあ? しおりさんて誰ですかあ」という甘ったるい声が上がる。
青野君は何も答えなかった。
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