青野君の犬になりたい
息苦しくなってきたのは徐々に煙ってきた店内の空気のせいか。
それともだんだんしつこくなってきた、左側に座る男性のせいか。
ラインをしようとスマホを手に体を押し付けてくる。
ああ息苦しい。
もう帰ろうと決心したとき正面で、ガタっと椅子を引く音が聞こえた。
「ごめん、腹痛くなってきたからもう帰る」
席を立った青野君は私のところに来て「彼女も連れてくから」と、2人分の会費をテーブルに置くと、皆が呆気にとられているうちに私の腕をとって店を出た。


私の手を握り、何も話さないまましばらく歩くとふいに立ち止まる。
「怒ってるの?」と尋ねると「怒ってないよ」と怒ったような顔をして答えた。
「気分、悪そうだったから。あいつ、酒飲むとしつこいんだよ」
「有難う。今日はね、ドタキャンした英子からしつこく誘われて仕方なく出たの」
私は聞かれてもいないのに言い訳をした。
機嫌が悪いのか、それともそんな私のことはもう興味もないのか、青野君は「ふうん」と気のない返事をした。
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