青野君の犬になりたい
「葉山さんの恋って、なに?」
隣のテーブルのサラリーマンがガハハと楽しげな笑い声を上げる。
きっと能天気に馬鹿笑いしているこの人たちだって、恋の経験はあるはずだ。
なのに、なぜ目の前の青野君は「恋」がわからないのか。
恋とはなにか? 
答えようとして言葉につまった。
恋とはなにか、なんて説明したことはない。
私は少し考えて、昼間の自分の状況を口にした。
「落ちるもの。すとんと落ちるもの」
言ってから、これではまったく説明になっていないじゃないかと思う。
「どこに? 何が?」
案の定、青野君がツッコミを入れてくる。
「バカにしてる?」
「いや、答えを知りたい」
「好きという思いが胸の中に落ちて一気に広がっていく。心がその思いでいっぱいになる―――」
「へえー」
「初めて知ったよ、そんなこと」というように青野君が感心する。
やっぱりバカにしている。
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