青野君の犬になりたい
目の奥が熱くなって、溢れてきた水滴が落ちないように耐える。
青野君は何も言い返さずにしばらく私の顔を見つめ、「逃げないって約束したのに。嘘つきだな、葉山さんは」とアスファルトに視線を落とした。
七海さんでもなくナナでもなく葉山さんになっていた。
「青野君はずるいよ」
どうしてそんなに悲しそうな顔を作るのだ。どうしてそんな寂しそうな声を出すのだ。
「そうだね、ずるいね。僕から逃げればいいよ。別に鎖なんてついていないんだから、葉山さんの好きな場所に逃げればいい。でも―――」
とうとう涙が頬を転がり落ちた。
青野君の「でも」から先の言葉を待たずに私は駆けだした。
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