青野君の犬になりたい
「ごめんね、実は私、まだ青野君のこと好きなの。だからもう少しそっとしておいてもらえないかな。気持ちを整理するのでいっぱいいっぱいで、今はなにも受け止められない。」
「だったらなおさら聞いてほしい」
青野君はこれまでになく強引に私の手を握って歩きだし、ちょうど通りかかった空車のタクシーを止めて乗り込んだ。
車の中では一言も話さず、ただ私の手を握っていた。
連れてこられたのは青野君の部屋だった。
入ったとたんベッドで一緒に添い寝した思い出やコーヒーの懐かしい香が広がって、胸がキュッと絞られるように苦しくなった。
なのに、青野君は平然と言うのだ。
「僕の一番目の彼女の話をするよ」
私は目をつむり、怒りたくなる気持ちを抑えた。
「どうしてわざわざこの部屋で、あなたの一番の想い人の話を今頃聞かなきゃならないの? 私、余裕ないって言ったよね? どうして? 勝手に好きになってたかが4番目なのに、勝手に逃げた嘘つきでずるい女への仕返し? わざわざ私を待ち伏せてまで、本気の彼女がいるから私のことなんて好きになるわけないじゃんとか説明したいわけ?」
やっぱり来るんじゃなかった。
私はバッグを掴んで踵を返した。
でもすぐに背中から強く抱き留められて動けなくなった。
「行かないで」
青野君が私の首筋に顔を埋める。
「放して」
「お願いだか僕の話を聞いてほしい」

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