青野君の犬になりたい
「いらっしゃいませ!」という声がして、
入り口の方から若いカップルが手をつないで入ってくる姿が見えた。
視線がとろりと絡み合っている。
彼らはきっと恋し合っているはずだ。

「まさか恋したことないとか言わないよね」
私は話を戻して答えを求める。
「あるよ。昔は彼女への思いでいっぱいだったこともある」
ズキンと胸が疼いた。
自分で聞いておきながら、そんな答えは欲していなかったことに気がついた。
でもこの歳で恋の経験がない方がおかしいじゃないと気持ちを整える。
だった、と過去形であることにホッとしている。
「今は? 今は誰にも恋はしてないの?」
青野君はテーブルの上に頬杖をついて、あごを少し突出し「残念だけど、してない」、と答えた。

本気が見えない恋愛が3つ、私で4つ目になるわけだ。
< 12 / 125 >

この作品をシェア

pagetop