青野君の犬になりたい
「ふうん」
私の話を聞き終えた英子は、小鼻をひくっと微かに膨らませ、グラスの冷酒をくぃっと飲んだ。
今日は双方の家から近いなじみの居酒屋にいる。
住宅街に建つつつましやかなこの店は、10人ちょっと人が入れば満席になる。
この日は私と英子の他には2組の客がいるだけだった。
「だからやっぱり1番目の彼女が本当の想い人なのかな」
私も日本酒を口に運ぶ。
大好きな宮城のお酒だ。華やかな果実のような香りが口に広がりうっとりする。
「あれから何か進展はした?」
「いや、特には」
青野君の4番目の彼女になって1カ月、いや気づけば1カ月半が経ったが、何の変化もない。
夏休みに入ってアメリカに出かけた3番目の彼女の愛犬・ブチの世話を引き受けたと言って、
青野君は仕事を定時に切りあげダッシュで帰ってしまう。
たまに青野君とブチの幸せそうなツーショットがスマホに送られてくる。それだけだ。
青野君と同じくらい顔が大きくて、ピンクの舌を見せて笑っているかのように見えるブチは
確かにとてもかわいい。
青野君がいそいそとブチのもとに飛んでいく気持ちもわかる。
けれど私は4番目の彼女に認定されて以来、まだ2人の時間を過ごしていない。
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