青野君の犬になりたい
涼やかな風が吹く秋日和になった。
暑さに弱い犬たちにとっても好ましい譲渡会日和だ。

隣でハンドルを握る青野君の姿にだんだん目が慣れてきたが、朝迎えに来てくれた時には相当驚いた。
ダテのダサい眼鏡はなく、寝起きのみだれ髪にしか見えなかったぼさぼさの髪はちゃんとセットされていて、セットされてみれば実はその髪型はとてもおしゃれだった。
服装も、いつも会社に着てくる制服みたいな地味なスーツ姿からは想像できないほどにさりげなくセンスがよかった。
つまり簡単に言えば青野君はカッコいい男だったのだ。
“他の女子たちからの評判も悪くない”ではなく、きっと“他の女子たちから人気がある”のだ。
多分私が気づいていなかっただけで。

バンの中には小型犬・中型犬・大型犬、合わせて6頭の犬を乗せている。
「このバン、新しいよね? こんなに犬乗っけちゃって大丈夫? 
犬の香ばしい香りが車内に充満しているけど」
「大丈夫だよ。ブチだっていつも乗ってるし」
「ブチ? もしかしてこれって3番目の彼女の車?」
「そうだよ。この間、ブチを預かってあげたから、そのお礼に喜んで貸してくれた。
彼女んち、車4台あるから1台なくてもどうってことないし」

青野君は他の彼女の話を普通にする。
私のほかに彼女が3人もいるわけだからいちいち隠される方が不自然だけど、
聞けば胸がちくっとうずく。

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