青野君の犬になりたい
「9時に戻れなかった。ごめん」
玄関に入ってすぐに私を抱き留めた青野君の胸からはカンナさんの香りが匂った。
つい今まで青野君とカンナさんが過ごした時間の気配。
「遅いよ。犬は留守番が苦手なのに。もっと抱きしめて」と甘えてみる。
もう一度、背中がしなるほどに強く抱きしめられ、そこで気がすめばいいのに聞かなくてもいいこと、聞いちゃいけないことをまた尋ねてしまう。
「なにしてたの?」
「話していいの?」
耳たぶに唇をかすめながら青野君が囁くように言う。
私は青野君の腕の中で首を振る。

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