青野君の犬になりたい

「ナナ、散歩に行こう」
「夜のフードも与えてくれないと」

私たちはマンションを出て、川沿いの道をぶらぶら散歩した。
夜になっても気温はそれほど下がらず、ジャケットを羽織って歩くにはちょうどよい気候だった。
半かけの月が白く光っている。
リードの代わりだと言って、青野君は私の手を握った。
道沿いには小さくておしゃれな店が軒を並んでいて、私たちは青いビニールのひさしのバルに入った。
「遅くなっちゃって本当にごめん、七海さん」
呼び名が七海さんに変わった。
「私、ここで犬から4番目の彼女に変身したわけ?」
「うん」
「なんで?」
「彼女にも、愛犬にもなりたいっていうから」
「どういうタイミングで変わるの?」
「別に。今は彼女の七海さんと一緒にいたいなって思っただけ」
他の彼女と会った後で、しらっとこんなことを言う。
何でこんな男、好きになっちゃたんだろう。
なんでこんな男に告白しちゃったんだろう。
どうして彼の犬で、4番目の彼女になるなんて言っちゃったんだろう。
好きだからだ。
好きになっちゃったから―――ただそれだけだ。
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