青野君の犬になりたい
「金曜は遅くなりたくないんだけどな」と、ちょっと骨ばった先細りのきれいな指でファイルをめくりながら、青野君がつぶやくように言う。
きっと誰かと予定があるのだろう。気分が萎えるが、でも私はこれまで青野君にたくさん仕事を手伝ってもらった。一緒に残業させてしまったうちの何度かは、誰かとの約束を壊していたかもしれない。
「もし間に合わなくなりそうになったら言って。私、やっておくよ。今週は特に予定ないし」
「特に予定、ないんだ?」
ファイルから目を上げて
ゆっくりと念を押すように聞いてくる。
「うん、今週はバタバタしそうだったから何も入れてないの。だから私は大丈夫」
「じゃあ、まじで頼むかもしれないからそのまま予定いれないでね」
「オッケー、任せて」
< 79 / 125 >

この作品をシェア

pagetop