青野君の犬になりたい
予定では7時過ぎには帰れるはずだったのに、ミキさんの仕事が追加されたおかげで気づけば8時を過ぎていて、今度はいつの間にか黒いバッグを斜め掛けした青野君が後ろに立っていた。
今日は珍しくいつものスーツを着ていない。
デスクに目をやると、ノートブックは閉じられている。
「彼女、いつもだね。手に余るとすぐ人に甘えて仕事を押しつけて。手伝おうか?」
青野君を見上げて、私は首を振った。私だって一緒だ。
こうして勝手に抱え込んだ仕事を、これまでどれだけ青野君に手伝わせてきたことか。
青野君は親切だからいつだって「手伝おうか」と声をかけてくれる。
それに甘え続けてきた。
もしかしたら疲れて帰りたかったかもしれないし、もしかしたらデートだったかもしれないのに。
「大丈夫。今日は予定あるんでしょ。早く行かないと遅れちゃうよ」
いやみではなく、これまでのことを申し訳ない気持ちで青野君の背を押した。
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