青野君の犬になりたい
“一応”はいらなかったけど、一応、青野君もそう思っていてくれていたのかと嬉しかった。
「でも、だったら早く誘ってくれれば――」と私が言うのと、青野君が「他に予定が入ってるかもしれないと思って」と言う声が重なった。
「そしたら今週は何も予定がないって言うから、サプライズで誕生会しようと思ってたのに――」
「のに?」
「またミキさんの仕事で残業に突入しちゃったからさ。いい店予約しといたのに残念ながらキャンセル。ということで、誕生会はなし!」と、青野君は踵を返して歩き出した。
「えー!」
追いかける。
グレーのジャケットに黒のジーンズ姿の青野君を追いかける。
隣に並ぶと青野君は歩調をゆるめず、私の肩を抱いてそのまま歩き続けた。
野原の匂いがすると思ったけど、それはジャケットから香るドライクリーニングの匂いで、でもやっぱり青野君からは草のにおいがして、目を閉じると野原が広がった。

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