青野君の犬になりたい
しかしカンナさんと一緒ではなかったということは、あれからもう一人の彼女――紗子さん――のところに行ったのかしらとぼんやり考えを巡らせる。
「ほかの女のところ?」
カンナさんの声にはっとする。察しがいい。
男に関して女の勘はどうしたって冴えてしまうものらしい。
見えないカンナさんの表情が固くなったように感じた。
「それはわからないけど」
「さっき私が青野君に電話をしても出ないっていったら、あなた驚いたじゃない? 私と一緒だと思ってたんでしょ。どうして?」
えーっと……これは素直に話すべきかどうか迷ったが、私とカンナさんが親しく話していること自体がイレギュラーなことだし、あえて隠す必要もないかと私は昨晩のことをそのまま話すことにした。
昨晩が私の誕生日で祝ってもらったこと。
帰り道で電話が入り、途中まで同じ方向のはずなのに、駅前で青野君と別れたことを。
カンナさんは「そっか、チョーアクのところか。オッケー。大丈夫よ」と、力強く言った。
なにがオッケーでなにが大丈夫なのか、私に言っているのか自分自身に言っているのかわからなかったけど、カンナさんは元のテンションに戻り「昨日、誕生日だったんだ、おめでとう!」と朗らかに言った。
彼女はいったい私のことをどう思っているのだろう。
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