【短編】バレンタインのお返しに。


こんなつもりじゃないのに。


瀬戸内先輩の驚いた顔が目に入るけど、わたしは机の下にあるコートとバッグを手に取って、社員に頭を下げながら、退社した。


本当は、やっておこうと思っていた仕事があるけれど、それは明日にしよう。少し早く来れば、いつもどおりに退社できるはず。



「……それに」



明日は、いろんな意味で惨めだ。


周りに彼氏やら彼女やらができていく中、わたしは先輩と越川先輩が晴れて両想いになる様子を見て、失恋しなければならない。



そわそわと落ち着かない空気の中、わたしだけが仕事に没頭するのは毎年恒例だけど、今年はわけが違う。


瀬戸内先輩が近くにいるのが、隣で『騒がしい奴らだなー』『お返しって、面倒じゃねえのかなあ』『やってらんねえよ』とぼやいているのを聞いていることが、お馴染みだったのに。



先輩は、好きなひとには騒がしくなって、面倒事もやるタイプなんですね。


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