【短編】バレンタインのお返しに。
「かーいとくんっ、おはよ!」
「……おはよう」
ぴょんっ、とでも効果音がつきそうな勢いで現れた越川先輩は、瀬戸内先輩の肩に手をついて、後ろから覗き込むようにして挨拶をした。
「今日は楽しみにしてるねっ」
「……? ああ」
「じゃあ、今日も1日頑張ろーね!」
わたしには目もくれず、さっさと自分の署へ戻っていく越川先輩を、瀬戸内先輩はぼーっと見ていた。
ああ、好きなんだな。
「あ、千。今日、仕事終わったら、一緒に帰ろ」
「……嫌です。越川先輩と約束あるんでしょう?」
「あるんだけど。お前にも話したいことあるからさ、待っててよ」
ね? とお願いをされたわたしは、小さく頷いて、それからすぐ後悔した。
きっと、これからは関わらないでほしいとか言われちゃうんだろう。それで、瀬戸内先輩との関係も、恋と同じく儚く散る。
瀬戸内先輩は、彼女第一なんですね。
◇
───やっぱり瀬戸内先輩を待つのはやめて、早く帰っちゃおう。
そう決めたのは、今日は一段と越川先輩と話す瀬戸内先輩を見つけたからだ。
家についてから、適当な理由を見つけてメッセージを送っておけば、問題ないはずだし。
そもそも、好きなひとから拒否をされるって、辛すぎる。