【短編】バレンタインのお返しに。
本当は、嫌いな社員もいるし、この会社に入って5年経った今でも、彼氏なし。
つまり、一度もわたしはお返しされたことがないから、無駄で痛い出費をするだけに終わるのは、目に見えている。
それでも渡した先月、新人社員のときはワクワクと期待に胸を踊らせていたのだけど、今では退屈でしかない。
「ぼさっとしてんな、手ぇ止まってんぞ」
「え? ……あ、ごめんなさい」
こつん、と頭を小突かれて我に返れば、隣に座る先輩の瀬戸内海斗(せとうち かいと)が、わたしをまじまじと見ていた。
ついに明日に迫ったホワイトデーに、女性社員はドキドキして、男性社員はそわそわしている中、
わたしたちは、至ってゆるりと過ごしていた。
「今年もお返ししないんですか、先輩」
「今年もお返しもらえないくせに」
「黙っててもらえます?」