【短編】バレンタインのお返しに。
社内で定番になってきている、瀬戸内先輩とさっきの話し声の主の越川(こしがわ)先輩の噂。
ふたりは両想いなのに、なぜかくっつかない───“お似合い”なのに。
みんな知っているこの噂の、“なぜか”という部分には、わたしがいるから、という理由が当てはまる気がした。
越川先輩は、毎年豪華な包装紙を使って、誰より可愛く気合い充分に瀬戸内先輩にチョコを渡す。
中身こそ知らないけど、たぶんわたしなんかとは比べ物にならないほど、いいものを作ってる。
そして、瀬戸内先輩もそれをもらうのが満更でもない───。
ふたりを邪魔しているのは、きっとわたしなんだと思い直して、自販機にお金を入れて、ボタンを押そうとした。
「俺、ブラックは飲めねえって、いつも言ってんだろ」
「……瀬戸内先輩」
「いい加減覚えてよ、もう6年目なんだしさ」