【短編】バレンタインのお返しに。
気を遣って、ふたりには気づかれないようにそっと歩き出したところで、瀬戸内先輩の声が、聞こえた。
「……ホワイトデー、空いてる?」
「うんっ、もちろん空いてるよ!」
「渡したいものあるから、仕事終わったら会議室で待ってて」
「……っ」
視界がぼやけて、前がよく見えなくなったけど、それが涙だと気づくのは、2拍ほど遅れた頃だった。
頬に伝う生ぬるいそれは、今さら気づいたわたしの、恋心───。
◇
気づいたときには、あとの祭り。
瀬戸内先輩は、越川先輩を選んだ。ホワイトデーに呼び出すってことは、きっとそういうこと。
渡したいものはチョコで、きっと翌日には付き合ったと噂されるのだろう。
わたしがハタチのときからお世話になっていて、5年も一緒にいて、気づくのが25歳のときなんて。