【短編】バレンタインのお返しに。


気を遣って、ふたりには気づかれないようにそっと歩き出したところで、瀬戸内先輩の声が、聞こえた。



「……ホワイトデー、空いてる?」


「うんっ、もちろん空いてるよ!」


「渡したいものあるから、仕事終わったら会議室で待ってて」


「……っ」



視界がぼやけて、前がよく見えなくなったけど、それが涙だと気づくのは、2拍ほど遅れた頃だった。


頬に伝う生ぬるいそれは、今さら気づいたわたしの、恋心───。







気づいたときには、あとの祭り。


瀬戸内先輩は、越川先輩を選んだ。ホワイトデーに呼び出すってことは、きっとそういうこと。



渡したいものはチョコで、きっと翌日には付き合ったと噂されるのだろう。


わたしがハタチのときからお世話になっていて、5年も一緒にいて、気づくのが25歳のときなんて。



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