冷徹ドクター 秘密の独占愛
「そういや、勤めだしてもう一ヶ月くらいになるっけ?」
「えっ、あー、はい。そうですね」
「じゃあ、浅木さんは生き残れるタイプだったわけだ」
ワックススパチュラを火で炙りながら、市野さんはクスリと笑う。
話しつつも、メタルフレームの中にある目は、真剣に歯肉形成をしている模型に向けられている。
「まぁ、何とかって感じですけど。その危機はすでに何回かありましたよ」
「でも、一週間持たない子もいるくらいだからね、優秀でしょ。俺なんかこっち側にいるからさ、新しく入ってきたって子に会わないまま辞めたってあとから聞くこととか何回かあったし」
「えっ、マジですか」
「マジマジ。アイツもなー、きっついからな」
「アイツって……副院長?」
市野さんが副院長のことを“アイツ”呼ばわりしたことに、驚きと共に疑問でいっぱいになる。
石膏を練る手をつい止めて市野さんを見つめると、溶かしたワックスにふうっと息を吹きかけ私に視線をよこした。
「ああ、昔から知ってるんだ。小中って同級生だったから」