冷徹ドクター 秘密の独占愛


「撮り終わったら、P検と下顎(かがく)スケーリング。主訴は左下奥の痛み。所見では、左下六番P急発。かなり着いてるから、上顎(じょうがく)は次回以降にする」

「はい、わかりました」


返事をしながら顔を見上げたら、急にさっきまで考えていたあの昼休みの事件のことを思い出してしまう。

自動的に熱くなっていく顔を隠すように慌ててマスクを引き上げる。

そんな私の様子に何の反応も示さず、副院長はカルテを差し出した。


「お願いしまーす」


ちょうどそのタイミングで、レントゲン室から森さんが照射をお願いする声を副院長に掛ける。

踵を返しレントゲン室に向かっていく背中をチラリと見ると、マスクの中で「ふう…」と小さく息を吐き出した。


< 107 / 278 >

この作品をシェア

pagetop