冷徹ドクター 秘密の独占愛


「すみません……もし、気に障ったら」

「いや……そんなことはない」


夜空を仰ぐ横顔は、どこか寂しそうにも見える。


医院を継承するはずだったお兄さんのこと。

お兄さんばかりに期待していた院長が、今度は副院長へと手のひらを返したように変わったこと。


納得いかないことも、時に抑え切れない怒りの感情も、自分の気持ちを押し殺して、今までたくさん乗り越えてきたのかもしれない。


きっと本人にしか、副院長にしかわからない苦境があったに違いない。


「事情は……私にはよくわからないです。でも、私は今の医院に来て、自分の仕事の可能性を知ることができました。それは厳しくても、先生のおかげだって思ってます」


スタッフが何人も辞めていってしまった元凶となった副院長が、私もやっぱり恐怖だったし苦手だと思った。


だけど、怖いと思うだけじゃなかった。


厳しく接されたことで、緊張感と向上心を持って仕事に挑めるようになったこと。

それは結果的に、私にとってプラスであり、改めて仕事に真剣に向き合えるきっかけとなっていた。


「いつかは、先生についていけるような衛生士になりたいって思ってます。なので、これからもよろしくお願いします」


これから先だって、時には嫌気が差して、お酒に酔いたくなる時だってあると思う。


でも、一スタッフが副院長を認めて、ついて行きたいと思っているということ。

そんな気持ちがある人がいるということを、知ってもらいたいと純粋に思った。

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