冷徹ドクター 秘密の独占愛
「あの時も……そうだったな」
「え……?」
「いや……何でもない」
そう言った横顔に微かな笑みが浮んだように見えた。
でも、それは気のせいと思ってしまうほど刹那に消える。
あの、時……?
「帰り道か?」
「えっ……あ、はい。衛生士学校時代の友達と会ってまして、その帰りです」
「そうか。なら送る」
飲み屋街へお客を探してやって来た空車のタクシーを捕まえ、副院長は先に私に乗るよう促す。
後部座席に並んで座ったものの、そこからはこれといった会話もなく、自宅近くまでタクシーで送り届けてもらった。
土曜の夜の帰り道。
少しだけ。
ほんの少しだけ、副院長との距離が縮まったような気がした。