冷徹ドクター 秘密の独占愛
迫る津田さんの向こうから、低く落ち着いた声が聞こえた。
ハッとしたように、私を掴んだ津田さんの手が離れていく。
振り返った津田さんの背中越しに見えた顔に、驚きと共に目を見開いていた。
「おい、待て!」
一転した状況に、津田さんは物凄い勢いでその場を駆け出した。
あっと言う間に先の角を曲がり、走り去る足音が遠退いていく。
恐怖から解放された安堵で、腰が抜けるようにその場に座り込んでしまった。
「大丈夫か」
アスファルトに手をついたその先に、黒の革靴が歩み寄ってくる。
見上げた先に再びホッと胸をなでおろした。
「立てるか」
「はい……」
自分で思っている以上に、精神的に参ってしまっているようだった。
立ち上がろうにも、スッと足が動かない。
そんな状態の私を、律己先生は両腕を掴んでそっと立ち上がらせてくれた。