冷徹ドクター 秘密の独占愛
車を降りた律己先生が連れて行ってくれたのは、住まいのタワー十階にある和食がいただける静かなお店だった。
何店舗か入る飲食店の中でも、店構えが圧倒的に立派で、石畳みと竹が和の庭園を演出する。
お会計カウンターにいた年配の男性店員さんが、律己先生の顔を見ると「先生!」と声を掛けてきた。
その様子で、顔見知りで常連なのかと察する。
律己先生は自らあまり自分のことを語るタイプではないはずだから、それなりに回を重ねるうちに店員さんが『先生』だということを聞き出したのかもしれない。
「先生が女性連れなんて初めてですね」
席へと案内しながら、その店員さんは気さくに話しかけてくる。
律己先生にこんな調子で話しかける人も珍しいなと密かに思っていると、「うちのスタッフです」と私のことを話してくれた。
通された席は、奥にある個室の御座敷だった。
店構えも風情のある造りだったけど、客席も情趣溢れたいい感じだ。
「よく、来るんですか?」
腰を落ち着けてからそんな質問をしてみる。
メニューを眺めていた律己先生は目を落としたまま「ああ、結構な」と答えた。