冷徹ドクター 秘密の独占愛
「悪い……」
気遣うように頭をよしよししてくれる。
息が上がった声で「大丈夫です」と答えた私を、律己先生は優しい力で抱き締めてくれた。
「急かす気はない。そう思ってくれてると知れただけで、今は十分だ」
回した腕を解放して、律己先生は穏やかな微笑を残して玄関を上がっていく。
一人その場に残された私の鼓動が、体の外まで音を漏らしているくらい早鐘を打っていた。
言ってくれた言葉の数々も、真っ直ぐな眼差しも、優しい触れ方も、今まで知ることのなかった律己先生の一面。
『選ばれし者しか見れないんですよ』
いつだか下村さんがそんなことを言っていたのを思い出す。
私はそれに、当てはまる存在になれたのだろうか。
知りたいと言いながら、こんなんじゃ心臓が何個あってももたないと思った。