冷徹ドクター 秘密の独占愛
「えっ……あの、明日は何を作ろうかな、と……」
何を考えていたかもすっ飛んでいきかけていた。
それくらい緊張が高まっている。
「無理しなくていい。毎日は負担になる」
「いえ、そんなことは……むしろ、他にもやれることがあれば、やらせてもらわないとって」
引き寄せるように、回された腕に微かに力がこもる。
背中に律己先生の体温を感じ始めて、ますます洗い物が続けられる状態ではなくなってしまう。
出しっぱなしの水道に手を伸ばすこともできないでいると、私の代わりに律己先生の手が私を離れて水を止めた。
「浅木はうちの家政婦じゃない。余計な心配はするな」
「え、でも、私……」
まだ何か言おうとしている私を、律己先生は更にぎゅっと抱き締める。
頭の上辺りにあった律己先生の気配が、耳元に近付きピクッと体が震えた。
「でも……美味かった。また、作ってくれるか?」
「……は、はい。もちろんです!」
律己先生は私の返事を聞くなり、フッと笑う。
そして「言ってることが矛盾してるな」と、自分のことを笑ったようだった。
距離が近付いて、知らなかった律己先生の姿を毎日垣間見る。
恐いとしか思えなかった頃が嘘のように、優しい部分や温かい部分を知っていく。
もっと知りたい。
抱き締める腕を眼下に、密かにそんなことを思っていた。