冷徹ドクター 秘密の独占愛
急性心筋梗塞だったらしい。
朝、いつものように起こしに行くと、すでに息を引き取っていたと、あとから奥さんは話してくれた。
元々、院長が高血圧症と糖尿病を患っていたのは知っていた。
加えて膨よかなことと、お酒が好きで毎夜晩酌をしていたという生活習慣が祟ったのだろう。
人との死別というのは、こんなに呆気なく訪れてしまうものなのか。
両親や祖父母も健在である私は、物心ついてから人の死に直面する場面が幸せなことに未だ経験がなかった。
職場の院長の死は、私の中では大きな出来事となった。
「次……もう考えてる?」
弔問客が途絶えた通夜の受付で、小声で尋ねてきたのは同僚の篠田さん。
一昨日の朝、あの現場に共に居合わせた助手さんだ。
私たちの勤める『塚田歯科医院』は、従業員は私と篠田さんの二人だけ。
ドクターは院長一人で、一時間に基本一人、多くても二人を診るペースで患者さんの予約を取っていたうちの医院は、歯科医院の中でもこじんまり診療していた医院と言える。
院長も高齢だから、診療内容も義歯調整や歯周治療に訪れる年配の方が多く、治療よりも院長とのトークが時間を占めているような、そんな緩い診療スタイルの医院だった。
今日は多くの弔問客の対応に追われる奥さんに代わり、私たち二人が受付に立っている。
「いや、まだ全然。篠田さんは?」
「うん、ちょっと求人見始めてる」