冷徹ドクター 秘密の独占愛
やっぱりお先真っ暗でした
「どうしたの、浅木さん」
翌日。
いよいよ迎えてしまった副院長がいる診療日。
朝から落ち着かない様子で診察室内をうろうろしていた私に、入ってきた常勤の牧(まき)先生がにこやかに声を掛けてきた。
牧先生はここでは中堅といった感じの歯科医。
副院長不在の昨日の診療では、牧先生が中心となって患者さんを回していた。
年齢的には開業していても不思議ではないけど、事情があるのか雇われの身でここの常勤をしてもう長いらしい。
くせ毛の短髪に黒縁メガネ。
がっちりとした体育会系な見た目だけど、患者さんには丁寧で繊細な治療をしていた。
「あ、おはようございます。いえ、ちょっと緊張してまして……」
「緊張?」
不思議そうに首を傾げられて、サササッと横歩きで牧先生に近付く。
小声になって緊張の理由を口にした。
「副院長先生ですよ、昨日色々聞いたら朝から胃が痛くて……」
「あー、俺も胃が痛えよー」
「うわぁ!」
いきなり背後から声がして飛び上がる勢いで驚いてしまう。
振り返ると、もう一人の常勤の先生、鮎川(あゆかわ)先生がいつの間にか立っていた。