冷徹ドクター 秘密の独占愛
チクリ。
嘘がまた胸のどこかを針で刺したように痛める。
離れることを決めた気持ちと裏腹に、白衣の律己先生に腕を回す。
ぎゅっと抱き締めると、決意が揺らいでしまいそうだった。
「……千紗?」
何か異変に気付いたように、律己先生が私を呼ぶ。
その呼び掛けに声も出せなかった。
ただじっと、しがみつくように体を密着させる。
鼻の奥の方がツンとしてきてまずいと思いだした時、引き剥がすようにして肩を掴まれていた。
確かめるように顔を覗き込んだ律己先生は、戸惑う私へと唇を重ね合わせる。
「んっ……」
結んでいる唇を割った深いキスをされ、驚きで顔が紅潮するのを感じた。
「落ち着いたら、連絡してこい」
「……はい」
微かに息の上がった私を、律己先生はクスッと笑う。
赤いであろう頬を撫でると、私を置いて控え室を出て行った。
再び一人になった控え室で、堪えていた涙が流れ落ちた。
あんな風に優しく抱き締められて、こんな甘い口づけをされたら、離れることができなくなってしまう。
「うっ……っ、う……」
私はしばらく、溢れ出す涙に声を押し殺していた。