冷徹ドクター 秘密の独占愛


チクリ。

嘘がまた胸のどこかを針で刺したように痛める。

離れることを決めた気持ちと裏腹に、白衣の律己先生に腕を回す。

ぎゅっと抱き締めると、決意が揺らいでしまいそうだった。


「……千紗?」


何か異変に気付いたように、律己先生が私を呼ぶ。

その呼び掛けに声も出せなかった。

ただじっと、しがみつくように体を密着させる。

鼻の奥の方がツンとしてきてまずいと思いだした時、引き剥がすようにして肩を掴まれていた。

確かめるように顔を覗き込んだ律己先生は、戸惑う私へと唇を重ね合わせる。


「んっ……」


結んでいる唇を割った深いキスをされ、驚きで顔が紅潮するのを感じた。


「落ち着いたら、連絡してこい」

「……はい」


微かに息の上がった私を、律己先生はクスッと笑う。

赤いであろう頬を撫でると、私を置いて控え室を出て行った。


再び一人になった控え室で、堪えていた涙が流れ落ちた。

あんな風に優しく抱き締められて、こんな甘い口づけをされたら、離れることができなくなってしまう。


「うっ……っ、う……」


私はしばらく、溢れ出す涙に声を押し殺していた。


< 252 / 278 >

この作品をシェア

pagetop