冷徹ドクター 秘密の独占愛
持ち込んでいた私物をまとめ、置き手紙を残した。
預かっていた部屋の鍵は封筒を入れて、一階にあるロック式郵便受けへ。
手紙には鍵の在り処と、『お世話になりました。ありがとうございました』というお礼を書いた。
手紙の締めくくり、ペンを持つ手が不意に止まった。
『大好きです』
そう、最後に書きたかった。
だけど、それを書いてしまえば何とか保っている気持ちが乱れてしまいそうで、ペンをバッグの中へとしまい込んだ。
律己先生は、あれから何度も電話をくれている。
お母さんの具合はどうかと聞かれるたび、心の中で『ごめんなさい』と呟いていた。
「千紗、二階の掃除機、バトンタッチね」
だって母は、こんなにピンピンしている。
倒す相手を間違えたな……と、つくづく思う。
「今日は出かけようと思ってるから無理。独り暮らしの部屋の片付け行こうかと思ってるし」
「またー、毎日そんなこと言って、全然行かないじゃない」
掃除機のスイッチをオフにし、ソファーに置いてあるクッション二つを開け放った窓へと持って行くと、バフバフとぶつけ合わせて埃をはたいた。
「あんたさ、こっちに正式に帰ってくるつもりなら、早いとこ新しい職場探しなさいよ」