冷徹ドクター 秘密の独占愛
「わかってるよ。そろそろ就活しようと思ってたし」
逃げるように実家に帰ってきて、こんなにすぐに次の職場を探す気にはとてもなれずにいる。
そもそも自分自身、これから先のことをどうすればいいのか、よくわかっていない。
あの時は、これ以上の迷惑をかけたくない一心で自分の居場所を手放した。
だけど、実家に帰って心機一転、なんて、簡単に気持ちを切り替えられない。
律己先生とのことだって、曖昧なままにしてしまっている。
はっきりとさよならを言って、こっちに帰ってきたわけでもない。
でも、離れて顔を合わせなくなれば、忙しい律己先生の中で私の存在は徐々に薄れていくかもしれない。
自然と距離が離れて、私という人が過去になっていく。
自然消滅……という形で。
「あっ、そういえばね、いい話があるのよ!」
クッションを私の腰掛ける横に放った母がやたら明るい声を上げた。