冷徹ドクター 秘密の独占愛


今日奥さんに会うと、今後のことについて話があった。

院長が亡くなったことで、うちの医院は必然的に廃業することになる。

院長夫婦には跡を継ぐ歯科医の息子娘がいないからだ。

奥さんは他からドクターを雇ってまで病院を存続させるつもりはないと言う。

となると、病院は閉めるしか道はない。

そこで問題になるのが、従業員である私たちの存在。

病院を閉めるとなると、いきなり職場を失うわけになる。

奥さんはこんな時に関わらず、申し訳なさそうにその旨を話した。

次の職場を探してほしい、と。


「うちみたいなさ、緩ーくやってるとこがいいんだけど、なかなかそういうとこって居心地いいから辞めないじゃん? だから求人出ないんだよね」


黒髪のショートボブを耳に掛け直し、篠田さんはため息混じりに言う。

大粒のコットンパールのピアスが顔を覗かせた。


「でも、篠田さんならどこでもやってけそうだけどな」


篠田さんは私の三つ歳上の三十歳。

私が今の医院に勤めて七年近くなるから、すでに十年目が間近に迫っていたところだったと思われる。

通勤はクロスバイクでしていて、ファッションはいつもスポーティー。

一重のキリッとした目元が涼しげなことと、髪型のせいかボーイッシュな印象の人だ。

仕事もテキパキとこなすし、受付での対応もはっきりとした受け答えをするから年配の患者さんにも好印象を与えている。

そんな彼女だから、うちみたいなアットホームな緩い医院でなく、バリバリ診療をしている歯科医院でも十分やっていけると私は思っている。

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