冷徹ドクター 秘密の独占愛
「すみません……」
「……なぜ謝る」
自分でも無意識のうちに謝ってしまっていた。
スマホを懐にしまった副院長は、怪訝な顔をして私の顔をじっと見つめる。
「いえ……すみません」
もはや副院長を前にしたときの口癖のようになってしまっているらしい。
また「すみません」と口にした私に、副院長は小さくため息をついた。
「その『すみません』はどういう意味だ」
「え、それは……」
「もしかして……こういう席を開かれても、いつ辞めるかわからない、という意味の『すみません』というわけか」
「え、いえっ、そういう意味では」
「まさか、またバックレんじゃないだろうな?」
出てきた言葉に、頭上にはてなマークが浮かんだ。
また、バックレる。
言われた意味がわからず、射るような視線を見つめ返してしまう。
「ま、またって?!」
「……忘れたとは言わせない」
一体、何のことをこんな怖い顔をして言われているのか。
全くもって内容に身に覚えがない。
もしかして、人違い?
だけど、それを言い出す空気がまるでない。
私の戸惑いの眼差しを受けても副院長に変化はなく、容赦のない視線は怯まない。
居たたまれない雰囲気に息が詰まる私を置いて、副院長は席へと一人戻っていった。