冷徹ドクター 秘密の独占愛


診療が始まった院内の中で、一人往診の準備を始める。

抜歯に必要な器具を選びながら、人知れずため息が漏れた。


いきなり副院長と往診に行くことを命じられ、一気に気後れしてしまっていた。

またどやされるのではないかと思うと、簡単な抜歯だとしても気が抜けない。

あれがない、これは持って来ていないのか、なんて出先で言われたら、たまったもんじゃない。

念には念を入れて、少しでも使う可能性がある器具を準備する。


「浅木さん、準備できました?」


最後に滅菌グローブを棚から取り出しているところで、受付けをしていた下村さんが声を掛けてきた。


「あ、うん」

「律己先生、今出て行ったから荷物下ろした方がいいと思います」

「えっ、嘘。わかった、ありがとう」

「頑張ってくださいね」


下村さんからの知らせを受け、慌てて準備した荷物を持って診療室を出ていく。

往診セット一式が入る巨大なボックスを二回に分けて二階にある従業員通用口から外に運び出すと、院長宅方面から副院長がやってくるのが目に入った。

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