冷徹ドクター 秘密の独占愛



串田さんの自宅は、車で約二十分ほどの住宅街にある。

往診は院長の往診用の車で訪問していて、今日のその運転は副院長がしてくれている。

往診用と言っても、高級セダンのレクサス。

コンパクトカーや軽だと思っていたら、往診にこんないい車で行くもんだから初回は驚いた。


診療室から荷物を下ろすと、やって来た副院長は無言のまま私の持ってきた荷物をトランクに詰め込んだ。

そして、やっぱり無言のまま運転席へ乗り込み、私は戸惑いながらもいつも通り助手席のドアを開いた。

それから今……移動中の車内も、予想通り沈黙が落ち、居心地は最高潮に悪い。

早く串田さん宅に到着してくれひたすら願いながら、窓の外を眺めている次第だ。

院長とは、雑談を含め色々な話をしながら串田さん宅までの道を過ごした。

だから移動もあっという間の時間だったけど、無言は時間が経つのが遅すぎる。


先週末の歓迎会の席で言われた、脅しのような副院長の言葉。

あれから取り憑かれたようにそのことばかり考えているけど、やっぱり微塵も思い当たる節がない。

だけど、完璧主義っぽい副院長のタイプからいって、勘違いや間違いであんな風な言い方をする気はしない。

だとしたら、私が思い出せない何かがあるはずなんだけど……。


悶々とそんなことを考えているうち、車は串田さん宅前に停車した。

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