冷徹ドクター 秘密の独占愛



院長の通夜、告別式が終わり、後日私物の片付けや引き取りに病院を訪れた。

長年働いた診療室を最後に覗きにも入った。


衛生士学校を卒業して、初めて就職した病院。

右も左も分からない私に、院長は丁寧に指導してくれた。

学校の実習だけではなかなか身に付かない材料や機械の取り扱い。

そして、患者さんとのコミュニケーションも院長を見て学んだ。


決して高度な技術を身に付けられる病院ではなかった。

だけど、ここで学んだことはたくさんある。


これからどんな病院に勤めるかはまだ決まっていない。

けれど、ここで得たものを生かしてやっていきたいと思う。


しんと静まり返った診療室で、私は一人頭を下げた。

ありがとうございました。

亡くなった院長に、言えなかった感謝の気持ちを伝えるように。


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