冷徹ドクター 秘密の独占愛
寝たふりを襲ったパニック
関係を終わらせる原因を作ったのはあっちだ。
それなのに、何を今更話したいなんて言えるのだろう。
「わざわざ戻って来てまで、何の話?」
誰もいない診療室の中、消毒室の入り口付近に慎は一人立っていた。
笑顔一つ見せない私を見ても、慎に動じる様子は全く窺えない。
むしろ、臨戦態勢でやってきた私に対し、人懐こい笑みを浮かべる。
出会いたての頃、私がコロッと騙された、あの笑顔と同じだ。
「さっき話し足りなかったから、戻ってきた」
「だから……話すこととか、もうないじゃん」
「うわっ、冷た」
冗談を受け流すかのように、慎はハハハっと笑って頭を掻く。
ムッとしたままその姿を見つめていると、ふざけた表情を消した慎は私の顔をじっと見つめ返した。
「千紗……また、やり直せない?」
「は……? 何言って……」
その申し出に、さほど驚きはなかった。
あんな別れ方をしたのに、そんなことを簡単に言ってこられる奴。
彼がそういう軽薄者だということは、別れるきっかけにもなったし、今まで嫌なほど思い知らされてきた。